最近、医学部大学入試において「医師の地域枠離脱問題」という言葉を耳にする機会が多くなっています。
この記事では、そんな医学部大学入試における「地域枠選抜」がどのような制度なのか、メリット・デメリットはどんなものなのか、そして地域枠離脱問題とは一体どんな問題なのかということについて解説していきます。
医学部地域枠選抜とはどんな制度?
まずは、医学部大学入試における「地域枠選抜」がそもそもどういった制度なのかを見ていきましょう。
令和2年度(2020年度)に行われた文部科学省医学教育課の調査によると、全国80校ある医学部のうち、70校もの大学が地域枠選抜制度を導入しているようです。
デジタル大辞泉(小学館)によると、医学部地域枠とは以下のような紹介がされています。
「地域医療の担い手を確保するために、大学医学部が設ける入学者選抜枠。将来、その地域で一定期間、医療に従事することを条件に、返済不要の奨学金を支給したり、入学しやすくしたりする。」
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%8C%BB%E7%99%82/#jn-240885
噛み砕いて言うならば、将来医師として特定の地域、特定の診療科で規定年数働くことを条件に、学費が免除されたり奨学金が給付されるということになります。
医学部地域枠選抜は推薦入試の一形態と言われることもあります。
では、そんな医学部入試地域枠のメリット・デメリットについて次の項で見ていきましょう。
メリット
学費負担が抑えられる
前述したとおり、医学部地域枠選抜を利用して医学部に入学した場合、奨学金が給付される場合があります。そして、厚生労働省によると
「都道府県が学生に対して奨学金を貸与している場合、都道府県の指定する区域で一定の年限従事することにより返還免除される。」
とありますから、医学部地域枠選抜を利用することで学費の負担を抑えることができます。
これが地域枠選抜を利用する最も大きなメリットではないでしょうか。
医学部受験において学力・偏差値が障壁となることは当然ですが、医学部の高額な学費を払うことができるのか否かということも大きな障壁の一つとなっています。
特に国公立医学部に比して、私立医学部では学費が非常に高額となっています。
したがって、この学費負担が抑えられるということは多くの受験生にとって非常に魅力的なポイントとなっていて、地域枠選抜を利用する目的としてもっともポピュラーなものではないでしょうか。
入学試験(受験)難易度が下がる場合がある
これは各大学の倍率によって異なるため一概には言い切れませんが、大学卒業後の進路・キャリアがある程度縛られてしまうという点から地域枠選抜では一般入試よりも入試倍率が下がるということがあります。
中には、地域枠選抜が定員割れしている医学部もありますから、そういった医学部の地域枠選抜はかなり狙い目となっているのではないでしょうか。
ただ、もちろん一般入試に合格できるだけの学力は必要とされますので、自分の希望している大学の受験要項を熟読してどちらを受験するのかをしっかり決めておくことが重要となってきます。
医師国家試験合格率が高い
平成30年度に行われた文部科学省医学教育課の調査によると、
「地域枠等の卒業生の方が、地域枠等以外の卒業者より国試合格率が高い。」ということが分かっています。
この地域枠出身者の医師国家試験合格率を押し上げている要因としては、医学に対するモチベーションの高さということがあるのではないかと予想されます。
つまり、「自分は奨学金をもらっているのだから頑張らないといけない」という気持ちが医学、及び医師国家試験に対する姿勢に現れているのではないかということです。
もちろん、地域枠出身者は地域枠という制度を利用してまで医学部に入って医師になりたい学生の集まりということもありますから、そもそも入学前のモチベーションから違うというバイアスが掛かっていることもあるかとは思いますので、あくまで推測の息を出ないということには注意してください。
デメリット
将来働く診療科・地域が規定される
医学部地域枠選抜を利用することの最大のデメリットは、大学卒業後の進路、具体的には医師国家試験に合格して初期研修を行う時点から診療科や勤務先地域が規定の年数縛られることが多いということになるでしょう。
無論、ただで奨学金がもられるなどという美味しい話があるとは到底考えられないのでデメリットがあることは当然ですが、この点が医学部地域枠選抜で医学部に入った受験生が最も後悔するものとなっています。
入学前は「別に医師になれるならどこで働いてもいい」と考えていても、一般入試で医学部に入学して選択肢が豊富な同級生を見ていると、後悔の念がでてくるといったことが実際にあるようです。
更に医学部地域枠で規定される診療科は、救急科や産婦人科といった一般に労働環境が厳しいと言われる診療科であることが多く、この点も医学部地域枠選抜を利用した学生の後悔の一因となっているのでしょう。
地域枠から離脱する場合は一括返済
地域枠から離脱したい、つまり大学卒業後に特定の地域や特定の診療科に縛られたくないといった思いを抱く人が出てきてしまうということは非常に嘆かわしいことですが、現状ではそのような人々が一定数存在しています。
前述の通り在学中にそのように考えることもありますし、医師国家試験合格後・卒業後の結婚や家庭の事情といったライフステージの変化に伴って、地域枠離脱を考えることもあります。
その場合、奨学金を利子を含めて全額返済することが求められます。
この利子はかなり高く設定されていることも多く、医師の高額な給与と持ってしても全額返済は厳しいとされています。
ただし、一括返済をすることができたとしても、地域枠離脱ということに道徳的な問題は残ってしまいますから地域枠離脱というのは難しいものとなっています。
地域枠選抜を行っていない大学
前述の通り、令和2年度(2020年度)に行われた文部科学省医学教育課の調査によると、全国80校ある医学部のうち、70校もの大学が地域枠選抜制度を導入しているようです。
したがって、ここでは令和2年度時点で地域枠選抜制度を導入していない大学を一覧形式でまとめておきます。
※2021年、2022年の最新状況はまた異なる場合もありますから、各自で志望大学の受験要項を熟読することをおすすめします。
- 北海道大学
- 東京大学
- 京都大学
- 大阪大学
- 九州大学
- 国際医療福祉大学
- 慶應義塾大学
- 東京女子医科大学
- 日本大学
- 産業医科大学
医学部地域枠の離脱問題
では、ここまでで医学部地域枠選抜について見てきましたから、最後に近年問題となっている医学部地域枠離脱問題の実態について解説していきます。
上で述べたように奨学金を利子付きで返済すれば基本的には地域枠を離脱することができますが、やはりそれでもなお地域枠で入っておきながら離脱するということは道義的な問題をはらんでいます。
さらに問題となりうるのは地域枠で入学したにもかかわらず、規定に従わずさらに奨学金の返済もしない人々の存在です。
地域枠離脱の理由の例としては、厚生労働省の調査によると
- 家族の介護
- 体調不良
- 結婚
- 他の都道府県での就労希望
- 指定された診療科以外の診療科への変更
- 留年
- 国家試験不合格
- 退学
- 死亡
- 国家試験不合格後に医師になることをあきらめる場合
といったものがあるようです。
中にはやむを得ないだろうと考えられる理由もいくつかありますが、利己的な理由で地域枠を離脱してしまう人数が一定程度いるのです。
離脱に対する他の医療関係者の意見としては、
- 奨学金全額返済では甘すぎる、医師免許を剥奪するべきだ
- 専門医資格を取れないようにするべきだ
- 道徳的に考えてありえない
- そもそも地域枠の要件を守るつもりがないなら最初から辞退すべきだ
といった厳しいものも散見されます。
一般入試で医学部に入った人々からすれば、地域枠で入ったのにも関わらず自分たちと同じ待遇というのはおかしいのではないかといった気持ちなのでしょう。
当然反感を買ってしまいます。
ただし、特定地域の医師不足を解消するためには医学部地域枠選抜は必要不可欠となっています。
また地域枠離脱の問題点として、都道府県によって対応が異なるといったことがあります。
したがって医学部地域枠離脱について、ペナルティを強めるなど国がまとまった方針を示すということが重要になってくるでしょう。
最後に
いかがだったでしょうか。
医学部地域枠選抜とは一体どんなものなのか、メリットデメリット、行っていない大学一覧、地域枠離脱問題について順を追って見てきました。
地域枠で大学入試に臨もうと考えている受験生の皆さんは、大学に入るまでのことだけではなく、是非医師国家試験に合格して一人の医師として働く自分の姿も想像してみてください。
どんな選択をするにしても、皆さんにとって望む結果が得られることを心よりお祈りしています。

代官山MEDICALの公式サイトです。
https://www.daikanyama1999.com/

ウインダムの公式サイトです。
https://windom.jp/